武田さゆりさま(小中学校のキャリア教育業界・現役高校教師・経済産業省キャリア教育アワード奨励賞受賞)

「キャリア教育は、高校からで十分」──もし、そう思っているとしたら、この回はその前提をやさしく、しかし確実に覆してくれます。今回の 瀧本博史の元気にはたらこ! にお迎えしたのは、NPO法人  xTReeE(クロスツリー) の理事であり、現役の高校国語科教員、そしてキャリアコンサルタントとして活動する武田さゆり(たけださゆり)さん。小中学校の現場で「生き方としてのキャリア教育」を広げ続けてきた、その実践のリアルが、じっくり語られました。

番組冒頭から印象的なのは、武田さんが一貫して「キャリア教育=職業教育ではない」と語っている点です。将来どんな仕事に就くかを早く決めさせることが目的ではなく、「自分はどうありたいのか」、「何を大切にして生きたいのか」を考える“癖”を、できるだけ早い段階から育てること。それこそが「キャリア教育の本質」だと語られます。高校生になってから突然「進路を考えなさい」、「志望理由を書きなさい」と言われても、多くの子どもたちが立ち止まってしまうのは、考える経験そのものが圧倒的に足りていないからだという指摘には、思わずうなずいてしまいます。

クロスツリーの活動が注目されている理由は、その具体性にもあります。例えば「ありたい姿の名刺づくり」。よくある「将来なりたい職業」を書かせるのではなく、「どんな大人でありたいか」、「周囲からどう思われたいのか」といった価値観にフォーカスし、それを言葉にして名刺という形に落とし込むプログラムです。今ある職業の半分が将来なくなるとも言われる時代に、「何になるか」よりも「どう生きるか」を軸に据える発想は、非常に現代的です。

さらに「令和のプロフィール帳」や「職業人インタビュー」など、子どもたちが自分自身や他者の価値観に触れる仕掛けが随所に散りばめられています。特に印象深いのは、キャリアコンサルタントが一人ひとりと行う「1on1(ワンオンワン)」の対話。わずか20分ほどの対話で、最初は緊張していた子どもたちの表情が驚くほど明るく変わる。その様子を見て、学校の先生たちが「何をしたんですか?」と驚くというエピソードは、この取り組みの価値を何より雄弁に物語っています。

番組ではまた、親世代・大人側の課題にも話が及びます。親自身が通ってきた進学・就職のモデルが、今の制度とは大きく異なっているにもかかわらず、無意識のうちに「自分たちの正解」を子どもに当てはめてしまう危うさ。子どもが「1on1(ワンオンワン)」で見つけた「本当はやってみたいこと」も、家に帰れば、親の価値観に上書きされてしまう現実。だからこそ今後は、子どもだけではなく、保護者や教員に向けたキャリア支援にも力を入れていきたいという武田さんの言葉には、活動が次のフェーズに入っていることが感じられます。

そして、この地道な取り組みが評価され、経済産業省主催「第14回キャリア教育アワード」で奨励賞を受賞したことも語られます。コロナ禍にオンラインコミュニティとして小さく始まった活動が、6年の継続を経て全国へ広がろうとしている。その背景にあるのは、派手な理論ではなく、「諦めずに続けること」、「現場で人と向き合い続けること」でした。

キャリア教育に関わる人はもちろん、子育て中の方、教育現場に関心のある方、そして「自分はいつから人生について考え始めただろう」とふと立ち止まった大人にとっても、多くの気づきがある回です。キャリアとは、進路指導のためのものではなく、一人ひとりの人生を支える土台なのだと、静かに教えてくれる放送。ぜひ音声で、武田さんの言葉の温度と、対話を大切にする姿勢を、そのまま感じてみてください。

NPO法人  xTReeE(クロスツリー)
https://xtreee.or.jp/

武田さゆり:子供(子ども)のための進路相談(ホームページ)
https://takedasayuri.com/

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